2017年4月25日火曜日

2017年春のシンポ 「近代東アジアのキリスト教とジェンダー:日・中・韓の比較」

2017年ジェンダー史学会春のシンポジウム

「近代東アジアのキリスト教とジェンダー:日・中・韓の比較」

日時: 2017年 6月17日(土) 13:00(受付開始12:30)~17:00
場所:フェリス女学院大学緑園キャンパス2号館2403教室
   〒245-8650 横浜市泉区緑園4-5-3
  横浜駅から相鉄いずみ野線「緑園都市駅」下車・徒歩3分
JR横須賀線「東戸塚駅」で神奈中バス(緑園都市駅行)に乗り「フェリス女学院」下車・徒歩1分
http://www.ferris.ac.jp/access/
入場無料

(1)シンポジウムの趣旨

本シンポジウムは、近代の日本、中国、朝鮮において、主に北米のプロテスタント女性宣教師によってもたらされたキリスト教が、各国のジェンダー構造にどのような介入を行い、それらはどのような交渉過程を経、どのように「現地化」されていったかを問う。東アジアの近代化におけるジェンダー再編へのプロテスタント・キリスト教の関わりとその結果は、日本、中国、朝鮮を比較した場合、どのような共通点と差異があったのだろうか。
北米発のプロテスタント伝道は、中国(広東)で1830年、日本(神奈川・長崎)で1859年、朝鮮(ソウル)で1884年に始まった。したがって、この順番で考えていくのが順当のようにも見えるが、実際に宣教師のメッセージなり、活動なりが注目されたのは、各国が「西洋近代」に目を向け、伝統社会の変革を試みようとした時期であった。特に、北米発のキリスト教伝道の顕著な特徴であった女子教育を基盤とするジェンダー構築への介入は、各国の近代化=西洋化への欲望の高まりと深く関係していた。したがって、そのモメントが訪れた順——19世紀後半の日本、20世紀初頭の中国、朝鮮——に検討を進める。
こうした試みは、伝統、近代化過程、ナショナリズム、ジェンダー構造にみられるそれぞれの国や地域の特徴を照射する可能性を秘めるとともに、北米の東アジアへの介入過程の変遷を跡づけることにもつながるであろう。同時に、それは、東アジアにおけるジェンダー構造の「近代化」に見られる、北米=西洋との交渉過程の時系列と空間的拡大を提示することにもなろう。さらに、東アジアにおける「キリスト教」や宣教師の影響が、通常イメージされるように、特殊で、狭い範囲のものではなく、ジェンダー構造の根本に揺さぶりをかけたエージェントであったことも了解されるはずである。
 ジェンダーをめぐるこのテーマの研究は、個別の国や地域についてある程度の蓄積がすでにある。しかし、比較にまで踏み込んだ議論は未だなされているとは言いがたい。本シンポジウムは、その未開の分野の扉をたたく野心的な試みである。

       
(2)シンポジウム報告要旨

報告1: 小檜山ルイ「共和国の母」から官製良妻賢母へ                  

 近代日本におけるジェンダー構築へのキリスト教の介入が本格化したのは1869年、プロテスタントの独身女性宣教師がアメリカから到来、定住してからのことである。独身女性宣教師は、女子教育を手がけ、そこで当事者の意思と選択に基づく一夫一婦の結婚、夫と子供に対して道徳的・教育的権威と権力を及ぼす母親役割、妻・母としての女性が主宰する「家庭(ホーム)」の創造等を強調し、「文明」の水準を満たすはずの女性像を提示した。
 本報告では、このような教育が、1)伝道の必要から出たこと、2)同時に、建国期の「共和国の母」を引き継ぐ、19世紀後半のアメリカにおける女性の政治文化に根ざしたもので、独特の政治性——「自己犠牲」の徳に依拠する屈折したーーを含んでいたことを指摘する。
 女性宣教師による教育は、19世紀後半の日本社会において次のような点で新しいものであった。第1に、配偶者選択における、自らの意志の発動という点。それは、女性に自我を認識させることであった。第2に、妻・母と娼・妾に分離されていた女性を統合しようとしたこと。女性宣教師が図らずも奨励した女性とは、セクシュアリティを備える妻であり母であった。第3に、そのような女性が司る家——「ホーム(家庭)」——では、女性の労働は基本的に再生産に特化されたにもかかわらず、相対的にその地位が高かったこと。第4に「家庭」の「主婦」の役割の一つとして「幼児教育」や「病人の世話」にかかる技能を教育課程に入れようとしたこと、第5に女性の権力基盤に、世俗の権力を相対化しうるキリスト教を据えたこと。
 女性宣教師による教育は、1890年代の国家主義の高まりのなかで、日本人によって批判されるようになった。そして、日本政府は、信頼や権力につながり易い医学分野におけるリーダーシップ宣教師からまず取りあげ、次いで1899年の訓令12号によってキリスト教を教育課程から排除しようとした。結果、宣教師は義務教育である小学校から手を引いた。同時に、官立高等女学校を整備してキリスト教のかわりに教育勅語を置き、「家」を前提とした「良妻賢母主義」を掲げ、女子中等教育の主流とした。(公娼制度や妾を維持し、女性の一元化の企ては未完のまま放置した。)その一方で、「主婦」としての教養や家事の技能を持ち、「自己犠牲」の徳で家族や社会に奉仕するという、女性宣教師が唱道した女性像の一部は維持された。

報告2:佐々木一惠 「新しい女」をめぐるポリティクス:アメリカ人女性宣教師と民国期中国におけるジェンダーの再編                
                                  
近代中国におけるジェンダーの(再)構築にキリスト教が及ぼした影響を考えるには、中国での帝国主義列強の勢力拡張の動きと、それに抵抗する中国のグローバルな近代性の再領土化の双方を視野に入れていく必要があるだろう。この複眼的な試みの一環として、本発表では、民国期前半の中国におけるアメリカ人女性宣教師による女子高等教育の事例を取り上げ、近代的で自立した「新しい女」の育成を試みたアメリカ人女性宣教師と、「新しい女」を目指した中国人女子学生との関係を検討する。
20世紀初頭、アメリカ合衆国から中国に渡った女性宣教師の教師、とりわけリベラル派のキリスト教国際主義の影響を受けた女性たちは、家庭を基盤とするヴィクトリアン・プロテスタンティズムから距離を置き、彼女たちが新たな時代のキリスト教の実践と考えたジェンダーの民主化を推進するための女子高等教育を展開していった。1910年代後半、彼女たちは、精神的・経済的に自立し社会に貢献できる「新しい女」を目指す中国人女子学生にとって、身近なロール・モデルとなっていく。しかし1920年代に入り、ウッドロー・ウィルソンが掲げた民主主義的な国際主義に対する失望が中国で広がり、また反帝国主義運動の気運が高まる中、アメリカ人女性宣教師の教師たちは近隣の学校の中国人男子学生の批判の対象となっていった。同時に、アメリカ人女性宣教師の教師たちは、自分たちを追従していると考えていた中国人女子学生たちに、自分たちとの違いを見出していく。
本発表では、アメリカ人女性宣教師がグローバルな近代性として掲げたリベラル派キリスト教のジェンダー観が、民国期における「国民」形成に伴うジェンダー再編の只中で、近代的な主体のあり方を模索していた中国人女子学生によって、どのように解釈・実践され、またそれが中国を取り巻く歴史状況の変化の中でどのような波紋を呼んでいったかを議論していく。

報告3: 朴 宣美「朝鮮に渡った帝国のエージェントたち―アメリカ女性宣教師と日本人女教師を中心に―」
                                        
 植民地朝鮮における近代的なジェンダー意識の形成と普及につとめた女性エージェントとして、アメリカを中心とする欧米からの女性宣教師、日本人女教師、そして朝鮮人女教師を取り上げることができる。報告では、まず、どの教派の海外女性伝道組織より、送り先の異教地における女子高等教育に貢献した、アメリカ北メソジスト監督教会海外女性伝道協会(Woman's Friend Missionary Society of the Methodist Episcopal Church)を中心に、女性宣教師のジェンダー意識を検討する。また、アメリカ女性宣教師たちの派遣先の中の日本の場合、女性宣教師が始めた教育から影響を受けるにとどまらず、アジアの国々、特に日本の支配地域に女教師を送った。たとえば、日本のミッションスクールで養成された日本人女性が朝鮮のミッションスクールなどで教えていたことは、その重要な事例になろう。報告では、このような日本人女性たちの事例の検討を行う。最後に、女性宣教師たちや日本人女教師たちの認識を朝鮮人女教師と比較する。女性宣教師や日本人女教師の影響をうけ、また、彼女たちを養成したアメリカや日本で教育を受けることによって、女教師として成長した朝鮮人女性は、どのようなジェンダー意識を持つようになったかを見る。こうした分析を通して、植民地朝鮮における近代的なジェンダー意識を作り上げた女性は誰で、その意識はどのように生まれ、何が新しく提示されたかを明らかにする。


2017年4月19日水曜日

ジェンダー史学会第14回年次大会自由論題研究発表の募集

ジェンダー史学会第14回年次大会運営委員会からのお知らせ
  ジェンダー史学会第14回年次大会自由論題研究発表の募集

 ジェンダー史学会14回年次大会は、20171217日(日)に奈良女子大学で開催される予定です。この大会における自由論題での研究発表(午前10時~午後1215分)を、会員の皆様から個人とパネルの2形式で募っております。研究発表をご希望の方、またはグループは、2017625日(日)までに下記の要領で大会運営委員会までお申し込み下さい。

1. 形式
    個人(時間: 発表20分、質疑応答10分)
    パネル(時間: 発表、質疑応答を含め60分、時間の配分、パネリスト数など自由)

2. 申し込み方法
エントリーシートに必要事項を記入の上、電子メールまたは郵便(申し込み締切日必着)で大会運営委員会までお申し込み下さい。

3. 司会
個人発表につきましては、大会運営委員会で準備いたします。パネル形式の場合は、
  発表グループの方でご準備下さい。

 なお、研究発表の採否につきましては、20177月中旬に、電子メールまたは郵便で通知させていただきます。時間の制約その他の事情により、やむを得ずお申し込みにお応えできない場合もありますことを、あらかじめご了承下さい。
 第14回年次大会の開催にあたり、運営全般にわたって皆様方のご協力を賜りますよう、このご案内かたがたお願い申し上げます。

2017424

申し込み先:
E-mailの場合: gh2017jiyurondai [a] outlook.jp

郵便の場合 〒166-8532 東京都杉並区和田3-30-22 大学生協学会支援センター内

 ジェンダー史学会事務局 ジェンダー史学会第14回年次大会運営委員会 宛